栃木SCは今季初めて3・5・2の陣形で臨んだ。注目は初の同時先発となった松永と若林のツインタワー。先取点狙いが鮮明だ。開始早々の2分、堀田が決めて結果が出た。
前半を1−1で折り返し、後半は前の選手を交代して勝負をかける構想が、高橋監督の頭の中に浮かんでいただろう。ところが前半ロスタイム、予期せぬ事態が発生した。ペナルティエリア左サイドで、只木主将が相手GKと一対一になった。双方が猛ダッシュした。激突プレーに対する判定は、アタッカー側の一発退場(著しい不正行為)だった。佐川MF中森のラフプレーにイエローカードを掲げた直後の越智主審の目には、只木主将の気迫に、プレー以上の"何か"が見えてしまったのかもしれない。
チームの心臓部を失った高橋監督ら首脳陣は、緊急事態への対応を迫られた。出した答は「若林を2列目に下げて、ボランチ(守備的MF)2人はそのまま」というものだった。4バックの佐川に攻撃の枚数を増やす余裕を与えてしまうリスクを覚悟の上の決断だったのだろう。
後半、一人少ない栃木は、佐川の猛攻によく耐えた。GK原が好セーブを見せ、遠藤・横山・高野の3バックが踏ん張った。前半から効いていた堀田、種倉の2ボランチの攻守バランスは職人の域に見えた。いつも以上の運動量を使った若林と石川裕之に替えて高秀と茅島、さらに、献身的だった伊奈川に替えて石川大と、生きのいい若手を投入する作戦が的中した。
歓喜さめやらぬスタンドの下の記者室で、高橋監督の会見があった。
|
越智主審「足の裏で行ったよね?」 只木主将「流れの中じゃないですか!」 |
(4月18日・栃木県グリーンスタジアム) |
2ボランチを動かさなかった点を聞くと、高橋監督は言った。「ボランチの1枚を前に出して致命傷を受けたら、元も子もありませんから」
1人少ないチームの定石かもしれない。カウンターに活路を見出すしか方法はなかったかもしれない。しかし、今季いまだ勝ち星がない。公言していた開幕ダッシュは失敗した。「ホームで勝てない」の声がざわざわと身を包む。引き分けではダメだ。何としても得点が欲しい…。そんな状況の中、高橋監督は、まずは守備陣を信頼し、スピードある若手に期待を託すという冷静さを失ってはいなかった。
昨シーズン、栃木は同じ栃木県グリーンスタジアムで、相手も同じ佐川印刷に、3点リードから4連続失点するという記録的な大逆転負けの屈辱を味わった。あの時は、高橋監督は不在で、浅野ヘッドコーチが指揮していた。「攻め続けていい」という浅野采配は間違ってはいなかったと思うが、守備意識に集中を欠いてしまった。
その教訓が、この日の「2ボランチのまま守備体系維持」の判断を導き、一人少ない劣勢を無失点で耐え抜く要因となり、初勝利という目的地にたどり着く道しるべになったように思う。
☆ 篠崎豊プロフィール 1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
|