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石川裕之のドリブル突破はファンを魅了する |
(4月29日・栃木市総合運動公園陸上競技場) |
4月25日の第5節・YKK AP戦で決勝ゴールを決めた石川裕之選手の身長は166センチだ。なのに、フィールドをかけ回る姿には、小柄な選手という印象はない。ほっそりした体型ということもあるが(体重は57キロ)、スピードとしなやかなプレースタイルが、見た目以上に大きく見せるのかもしれない。
富山は遠いので、YKK戦は見ていない。20人ほど行ったという栃木サポーターの一人が電話で「劇的だったですよ!」と伝えてくれた。後半ロスタイムだったという。石川はこの日、60分に交代出場した。石川本人に振り返ってもらった。「茅島から高秀に渡って、松永さんにボールが入りました。ディフェンダー2人がついていましたが、いい所に落としてくれました」。頭で押し込んで1−0。2連勝というお土産を持ち帰ってくれた。
3連勝がかかった第6節・佐川急便東京戦は、今季5試合目の先発。ポジションは左アウトサイドだ。6分に先制したが、試合は佐川ペース。堀田の1ボランチなので守備意識は切らせなかった。前半ロスタイムに左サイドの高い位置に仕掛けて行ったプレーがスローインを誘い、そこから追加点が生まれた。
2点リードの後半は、3バックのラインに吸収されたようなサイドバック的な位置どりが多かった。守りに入ったわけではない。「無理に前に出てバランスを崩さないように気をつけました。堀田さんがキツい時にはカバーに入ったり。右の伊奈川さんが前に出る形が増えたので、バランスを取っていたんです」。ボランチやサイドバックの経験もあるが、FWもこなす攻撃的な選手。しかし、状況を良く見て、自分の役割を冷静に判断していた。
この日の圧巻は、ゴール前で体を張って相手シュートを防いだシーンだろう。ボールが浮いて佐川の選手がシュート態勢に入った。石川は「ボールが落ちて弾む瞬間に打ってくる」と分かった。蹴られたら、ほぼ間違いなくゴールを割られる。ボールが浮いているうちに何とかしようと思った。頭からダイビングした。勢い余ったアタッカーに右太ももを思いっきり蹴られたが、ボールはクリアしていた。1失点を防ぐことは1得点することに匹敵する。いい仕事だった。
YKK戦の決勝点も含め、石川のJFL通算得点は8点。そのうち7点はアウェー戦。「でも、自分が得点した試合は全部勝ってますからね」
昨シーズンは終盤にケガで戦線離脱し、チームに迷惑をかけたと思っている。だから今シーズンは「どんな形でもいいからゴールに絡みたい」と強い意志で臨んでいる。90分間、精力的に走り回る豊富な運動量は、体力だけに支えられているわけではないのだ。
サッカーをやっている子供たちの中で、体が小さくて引け目を感じている子がいたら、ぜひ誰かにスタジアムに連れて行ってもらって、石川のプレーを見てほしい。石川裕之という小さなオールラウンドプレーヤーは、きっと、勇気と自信と希望をくれるはずだ。
☆ 篠崎豊プロフィール 1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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