第10節・大塚製薬戦は完敗だった。大量4失点に、ホームのファンは、無敗チームとの力の差を見せつけられた。確かに、大塚のFW大島と林は脅威だったし、片岡と大場の両サイド攻撃はリーグトップクラスの威力を敵地でも存分に発揮した。高橋監督も試合後、「相手の2トップは警戒していたのだが…。攻撃だけでなく、3バックもボランチも、さすがにトップを走っているチームだと感じた」と脱帽状態だった。
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大塚製薬戦のDF高野はミスもあったが、「信じること」を 忘れてはいなかった |
(5月23日、栃木県グリーンスタジアムで) |
しかし、力の差が0−4という数字ほどあったとは思わない。押され気味ながらも反撃意欲は高かった。結果的に、それが裏目に出てしまった。2失点目は決定的だったが、私の着目点は、89分の3失点目だった。栃木の3バックの左を守る高野修栄選手が、大塚の大場にボールを奪われ、そのまま持ち込まれてシュートを食らった場面。悲鳴とため息の中、私はガックリする高野を見つめながら、そのプレーの意味を考えた。
槙・守備コーチは「全体的に、コンタクト・スキル(ぶつかった時にマイボールにする技術)で相手が上だった」と見て、修正点の一つに挙げた。ただ、大場の並外れたフィジカル・コンタクトに高野が対抗できていなかったわけではなかった。
試合後、シャワーを終えた高野に、3失点目の場面を確かめた。高野は、開始直後にもクリアミスし先制点を許す原因を作っていたので、あまり話をしたくはなかったろうが、さっぱりした顔で応じてくれた。
「相手(大場)と一対一になったあの場面では、GKに戻してもよかったし、外にクリアしても良かった。でも自分は、抜いてやろうと思ったんです」。前に送って速攻につなげ、1点に結びつけようとしたのだ。「結果は失敗でした。反省しなければならないプレーでしたね」
「4失点だった今日はしっかりと落ち込んで、一晩寝たら気持ちを切り替えます」と小さく笑った高野の目を見て、胸が熱くなった。彼は問題のシーンで、自分を信じ、味方を信じ(前には信頼できる石川裕之や只木主将がいたし、前線には松永、若林、高秀が待っていた!)、反撃をあきらめず、1得点にこだわり、勝利の可能性に賭けていた。その強い気持ちが、相手を抜いて局面を打開しようというプレーに表現されたのだ。
信じること―苦境のピッチで、これほど大切なものはない。誰もが「ミス」と言うだろうし、「甘い」かもしれないが、私はあの時の高野の判断を支持する。
ロスタイムを含めて残り4、5分。素早いフィードから1点を返したら、試合の行方はまだ分からなかった。安全策を選択するのは、リードしているチームか、Jリーグ昇格がかかって慎重なチームの姿勢だ。今の栃木SCに、失うものなどないではないか。自分と味方と勝利を信じて戦う姿を、私たちファンは見たいのだ。
☆ 篠崎豊プロフィール 1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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