第12回  しびれた同点劇 (2004年6月8日)
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 3321人の観客が入った足利市総合運動公園陸上競技場には、いつもと違う雰囲気が漂っていた。戦いの場にふさわしい緊張がみなぎり、プレーへの期待が高まり、勝利の予感に心震わす試合前だった。
 3点目でついに同点。ガッチリ抱き合う高秀(中)、若林(右)、堀田(左)
(6月6日・足利市総合運動公園陸上競技場)
 第12節のザスパ草津戦。3・5・2の同じような布陣で対峙した両チームだったが、ザスパの速さと強さが上回る展開となった。17分にザスパが先制した。中央でボランチの鳥居塚がボールを持つと、左アウトサイドの寺田が伊奈川の裏のスペースに走りこみ、そこにピタリとパスが通った。クロスボールにFW佐藤が合わせた。絵に描いたようなサイド攻撃だった。
 強豪に先制されただけでも苦しいのに、栃木は後半キックオフ直後、連続2失点してしまう。得点したのは高須と山口。さすがは元Jリーガーだ(高須は水戸、山口は神戸)。ザスパの3得点をもたらした攻撃は、いずれも鳥居塚からだった。「要注意は、攻撃の起点の鳥居塚」なので、「ここを抑えることがポイント」と指摘していた通りになってしまった(当コラム第11回参照)。 なぜ栃木は、鳥居塚がボールを持った時のチェックを徹底しなかったのだろう。ボランチをマークするのは常識的ではないが、ことザスパに関してはトップ下の山口以上に試合を左右するキーマンなのだ。
 栃木の反撃は0−3になった時から始まっていた。 同点劇の幕開けは大詰めに近い84分だったが、サッカーの試合は90分+ロスタイムまで続くのだ。栃木の1点目は、佐野からのセンタリングをDFの後ろにいた高秀がジャンプして競り合い、ヘディングで決めた。本人はシュートのつもりではなかったそうだが、ボールは緩い弧を描いてゴール左隅に入った。2点目は2分後。ゴール前へのラッシュで混沌とした中、佐野が押し込んでいた。3点目は89分、ついにあのFW若林が、
 試合終了の瞬間、「自然発生的に」栃木県民の歌が
 沸き起こった栃木サポーター席
(6月6日・足利市総合運動公園陸上競技場で)
出場12試合目にして初ゴールを決めた。種倉からボールを受けた高秀が、いいタイミングで若林に預けた。
 89分間、勝利を信じていたザスパのファンたちが沈黙した。84分まで落胆していた栃木のファンたちは歓喜した。栃木サポーター集団は、いつも試合開始前に歌う「栃木県民の歌」を、おそらく初めて、試合終了のホイッスルを合図に歌い出した。勝利したような雰囲気となった。栃木SCを愛する、ほとんどの人がしびれただろう。緊迫の大舞台で、あのような劇的な試合ができる栃木SCは、私たち栃木県民の宝と言っても言い過ぎではない。図らずも、サポーター集団の歌声がそのことを象徴的に表現した。



 ☆ 篠崎豊プロフィール
1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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