第13回  ザスパ戦同点劇の要因 (2004年6月10日)
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 ザスパ草津戦の驚異の同点劇は、高橋監督のゲーム
  プランと選手起用がもたらした
(6月6日・足利市総合運動公園陸上競技場)
 涼しい草津で練習しているザスパが暑さに弱いと考えるのは早計だ。6月6日のような蒸し暑さには「温泉で慣れている」という冗談めいた分析もあまり意味がない。それでもやはり、ザスパは後半、足が鈍ってきた。高橋監督は初めからそれを見越し、後半勝負と踏んでいた。
 Jリーグ入りを目指す強豪に3点リードされた栃木が、84分から89分までの5分間に3点を返し、同点に追いついた劇的一戦。その要因は、もちろん最後まであきらめなかったフィールドの選手たちの奮闘にあった。ただ、どんなに奮闘しても、3点差を終了間際の短時間のうちに追いつくことは不可能に近い。それを可能にしたのは、高橋監督のゲームプランと選手起用だった。
 効いたのは、左足首ねんざで欠場した松永の代わりの控えにFWの専門家、佐野を入れておいたことだ。佐野は開幕戦前半にプレーしただけで、その後、ケガで戦列を離れ、若手の台頭の影に隠れていた。だが、後半に投入され、前線でザスパDF陣をかき回した動きはさすがだった。さらに、右アウトサイドに松本を起用したこと。DF登録だが攻撃的な松本は、この位置で一層力を発揮する。群馬FCホリコシ戦でも2点をアシストした実績がある。ザスパの守備陣は、伊奈川が交代してホッとする暇もなかった。高秀はすっかり栃木SCの切り札となった。茅島に手こずっていたザスパのDFには、元気な高秀を30分間もマークするという過酷な仕事が待っていた。
 試合中、監督にできるのは、3人の交代枠をどう使うかということ。
  FW佐野の起用が効いた
この日の選手交代は絶妙だった。3点取られても「気落ちするな!」と叫び続けた高橋監督は「ザスパの足が止まってきたのが分かった」。点を奪えそうもなかった相手の守りの壁を栃木の選手たちが総力で崩し始めた。「行ける」と思った。
 試合後、高橋監督は「交代で入った3人がよく持ち味を出した」と振り返った。満足そうな指揮官の顔だった。ザスパは3点リードの段階で、前線の3選手を交代した。「ご苦労さん」と迎え、「もっと点取ってこい」と送り出したように見えた。勝利を確信し切った交代だった。栃木の運動量に、DF陣は疲弊していたのに。ザスパの植木監督は、Jも含め全国的にも屈指の指導者。しかし、この試合に限っては、90分間を読む冷静さと、交代の妙によって選手の意識を持続させた栃木・高橋監督の“勝ち”だった。


 ☆ 篠崎豊プロフィール
1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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