後期第5節・ホンダ戦は、前半に先制したのに後半残り15分で3点を失い、完敗の形で終わってしまった。試合内容が劣っていたわけではなかった。むしろ押し気味で、チャンスも多く、勝ってもおかしくない試合でさえあったのだ。
先制点をもたらしたのは、JFL100試合出場となった只木主将の牛若丸のような動きだった。43分、右の伊奈川が入れたボールを拾って左の種倉に預け、斜めに切れ込んで、種倉から返ったボールをゴール前に低く入れた。ボールは松永をかすめて佐野に届き、佐野は頭で押し込んだ。
前半終了間際に1−0。理想的な得点だが、これが後半の試合運びに思わぬ影響を及ぼすことになった。栃木側は、ベンチも選手も、スタンドのファンも「1−0でホンダから勝ち点3」という筋書きを思い浮かべただろう。後半、何度かあった決定的ピンチも防いで、1−0のままラスト15分に近付き、勝ち点3は現実味を帯びてきた。
いつものように、カメラの望遠レンズ越しに展開を見ていた私は、そのころ、いつもと違う栃木ベンチが気になっていた。これまで何度も好結果を導いてきた選手交代のタイミングが、いつもよりズレ込んでいたからだ。今季18試合すべて、ハーフタイムか後半15〜20分には交代策を使ってきた高橋監督が、この日1人目の交代を告げたのは、後半30分になってからだった。
強豪を0点に抑えている時、選手交代を決断するのは難しい。1−0のまま何とか終わってほしいという願いがベンチを支配していなかっただろうか。願いは迷いと紙一重。たった10分のズレが、微妙なところで推移していた試合の趨勢をホンダ側に傾かせる、見えない引力となってしまった感がある。
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逆転負けにガックリ肩を落すGK原、DF横山ら |
(7月31日・栃木県グリーンスタジアムで) |
今季これまでで最も遅い1人目交代は後半18分だった。スーパーサブ高秀の平均交代時間は後半12分(前半とハーフタイムでの交代を除いても後半18分)だが、この日は後半36分の投入だった。試合の流れをどう読んでいたかにもよるが、遅過ぎた。ホンダは大エース古橋がJ1・セレッソ大阪に移籍して、後期は1勝1分け2敗。この不振ぶりは、栃木ベンチが試合の運び方を判断する一つの材料になっていただろう。
高橋監督は「0−0の気持ちで行け」と指示していた。「もう1点取りに行け」ということだ。しかし、FW若林投入直前の75分に1−1とされた。その若林がゴール正面の絶好機を逃し、逆に88分、89分に連続失点。勝ち点3どころか勝ち点1も失った。
逡巡から生じたであろう10分間の判断のズレ。勝率の悪いホームを「グリーンスタジアムには魔物が棲んでいる」と関係者は嘆くのだが、魔物はたぶん、スタジアムではなく、当事者たちの心の中に出没している。
☆ 篠崎豊プロフィール 1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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