第28回  楽天的になる時 (2004年9月24日)
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 勝利は人を楽天的にする。とりわけ、勝ち点勝負のサッカーの世界では、その要素が強いように思う。
横河DF西口をかわして決勝ゴールを決める若林学
(9月19日・足利市総合運動公園陸上競技場で)
 後期第7節の横河武蔵野戦を1−0で勝った栃木SCの高橋高監督は試合後、記者団に対して「残り8試合、8連勝を狙ってますよ」と言った。もちろん「一試合一試合を大切に戦っていくということです」とつけ加えたが。これから当たるザスパ草津やYKKAPは手強い相手だし、ソニー仙台もアウェーなので勝ち点1狙いが順当なところと思うが、監督が持ち続けてきた「自信」が、5連敗後の白星で一気に解放され、日ごろ慎重な指揮官を楽天家にしたのかもしれない。
 楽天的と言ったら悪いが、GK原は、自分が飛び出して無人になりかけたゴールマウスを高野がカバーして防いだ後半の決定的ピンチのシーンを「うしろにDFが入って、コンビネーションで守っていたので、大丈夫だと思っていた」と平然と言ってのけた。確かにゴールは連係で守るものだが、見ていたファンはキモを冷やした。
 只木主将は試合後に「失点を食らう要素はなかった」と言った。聞き方によってはずいぶん楽天的な話だが、主将は、守備陣の踏ん張りと安定感を強調する、ひとつの表現としてそう口にしたのだろう。
 勝利の後は、どんなに楽天的なことを言っても許される。ファンに至っては、残り全部勝てる気になっている。それはそれで、とても大切なことだ。「勝利の美酒に酔うヒマがあったら反省して次に備えなさい」といった優等生的な理屈は忘れていい。勝利の喜びは喜びとして、みんなで分かち合うべきものだ。
 相手の横河は、今季開幕5連敗した後は7勝7分け2敗と驚異的なペースで上昇していた。ホンダやザスパに匹敵する強さを見せていたチームだ。片やリーグ戦半ばに5連敗とどん底に陥ったわれらが栃木SC。リーグ屈指の横河アタッカー陣の猛攻をしのぎ、80分のゴールで、1−0で勝ったのだ。この勝ち方は、ホームのファンが最も熱狂する形だ。しかも1点しか取らなかったのに勝ち点はプラス3。最も効率のいい結果なのだ。
 只木主将が言った。「(5連敗の試合は)紙一重のところだったんです」
 そう、まさに横河戦の勝利こそが、2か月間忘れられていた「栃木SCの真実」だったと言える。ファンは、選手以上に、大いに楽天家になっていい。真実と現実は時に食い違うことがあり、5連敗という現実の中にも、内容的には負けていなかったという真実はあったのだから。

 ☆ 篠崎豊プロフィール
1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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