第31回  ゲームのカギ (2004年10月6日)
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 南長野での後期第8節・ザスパ草津戦は、緊迫感のある戦いだった。後半途中までは「0−0の引き分けで勝ち点1」という様相だった。そんな試合の流れを交代出場のザスパFWマルキーニョスが変えた。ザスパ草津の植木監督は試合後に「残り20分でどう動いて勝負するかがゲームのカギだった」と振り返った。その切り札が、期限付き移籍で登録されたばかりの23歳のブラジル人だった。残り約20分となって、初めてJFLのピッチに入ったマルキーニョスは、前線の右寄りにポジションを取ると、突破力、キープ力、展開力を短時間のうちに見せつけた。その位置がザスパ・サポーター集団のすぐ前だったことも、ブラジル人の血を燃え上がらせただろう。
 これで、堅守を保ってきた栃木の守備に混乱が生じ始めた。ゴール右の角度のない所から強いシュートを浴びたことで、ますますこの外人選手への対応に神経を使うことになった。ほぼ互角のせめぎ合いだった試合の均衡は揺らぎ、勝利の重心はザスパ側に移った。栃木の高橋監督も「マルキーニョスは、さすがに駆け引きがうまかった」と、そのセンスを認めざるを得なかった。キーマンのクロスボールからザスパはPKを獲得し、山口が決めた1点で勝利者となった。
 前期、足利での初対戦で、0−3から終了間際の5分間に追いついた驚異の同点劇は、高橋監督の采配がズバリ的中した結果だが、この試合では植木監督の返り討ちに遭った。「予想通り、しんどいゲームになった」と言いながら、その判断はさすがだった。
J2入会申請直後のザスパのホームゲームはさすがに盛り上がった
(右)栃木・松本、(左)ザスパ・寺田
(10月2日・南長野運動公園で)
 試合後、栃木の選手たちの悔しがりようは、かつて見たことがないほどだった。ピッチに座り込む選手もいたし、目を真っ赤に泣きはらす選手もいた。負けなくていい試合だったのだから当然だ。勝ち点1を信州土産に持ち帰れるところだったのだから。いい働きをした3バックの中の一人、遠藤は、それでもPKの場面を「(吉本に)入られたことと(マルキーニョスに)ボールを入れられたことが反省点です」と冷静に語った。ザスパはこの2日前にJ2入会申請をしたばかりだったが、フィールドの中では、その差は感じられなかった。植木監督は「J申請したことは意識していない」と言ったが、選手は申請後初の試合ということでプレッシャーはあったように見えた。むしろ「ウチの方が勝利への意識は高かったと思いますよ」(栃木・只木主将)。
 川中島古戦場の近くで行われた北関東決戦。敗れはしたが、選手たちは気持ちの中では負けを信じたくなかっただろう。その悔しさと強い気持ちがあれば、残り7試合に光は差してくる。

 ☆ 篠崎豊プロフィール
1956年、宇都宮市生まれ。記者歴27年。Jリーグ、JFLなどサッカー取材多数。読売クラブ時代からのヴェルディ・ファン。2004、05年に栃木SC写真展を開催。栃木よみうり前編集長。
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